我々は「高血圧の病態でみられる血管平滑筋細胞膜の興奮性変化にイオンチャンネルの変化が関与する」とする仮説を持ち実験を行っている。 本年度の検討で、以下の成果が得られた。 1)ダール食塩感受ラットにおける電位依存性カルシウムチャンネルの変化 ダール食塩感受性ラットでは、食塩負荷により、高血圧が発症し、血管平滑筋の脱分極と自発電気活動が出現する。パッチクランプ法を用いて、この電気活動性の亢進についてそのメカニズムを検討した。食塩負荷後のラットでは腸間膜動脈平滑筋細胞のL型カルシウムチャネル電流が増加していた。この増加は静止膜電位付近で大きく、病態生理学的意義が高いと考えられた。 2)血管平滑筋のナトリウム-カリウム(Na-K)ポンプの特徴 Na-Kポンプは、細胞内イオン濃度や膜電位の調節を介して、細胞機能を調節している。モルモット腸間膜動脈の血管平滑筋細胞膜に対しパッチクランプ法を適応し、Na-Kポンプ電流を記録し、血管平滑筋のNa-Kポンプの特徴を検討した。Na-Kポンプ活性は、細胞外カリウム、細胞内ナトリウム、温度、電位に依存しており、それらの依存性は他組織のNa-Kポンプとほぼ同様であった。ウアバインに対しては高い感受性を示した。また、インスリンが、phosphatidylinositol 3 kinaseとtyrosine kinaseを介して、Na-Kポンプの活性を亢進させることが分かった。 3)電位依存性カリウム電流 免疫染色法を用いて、ラット腸間膜動脈平滑筋の電位依存性カリウムチャネルの分子生物学的評価を行った。少なくともKv1.2、Kv1.5、Kv2.1の存在を認めた。また、パッチクランプ法では高血圧自然発症発症ラットでは、正常高血圧ラットに比べ、電位依存性カリウム電流が減少していた。現在、どのKvコンポーネントが減少しているか検討中である。
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