冠動脈攣縮(冠攣縮)は異型狭心症のみならず、心筋梗塞を含む冠動脈疾患全体の病態に大きく関与している。特に本邦において罹患頻度が多いことから、冠攣縮の発症機序に人種的・遺伝的要因が関与している可能性がある。本研究者らはこれまでに、血管内皮Nitric Oxide(NO)を介する血管拡張反応の低下が冠攣縮の病態に関わっていることを報告してきたが、その詳細な機序は十分に解明されていない。本研究の目的は冠攣縮性狭心症の発生機序に酸化ストレスが関与していることを臨床的に明らかにするとともに、本疾患における酸化ストレスの原因を分子遺伝学的に解明することである。本研究では特に細胞内酸化・還元(レドックス)に関わる物質および酵素群に焦点をしぼり検討する。目的(1)冠攣縮例における細胞内酸化ストレスの程度の評価。さらに細胞内レドックスに関わる酵素群の活性を冠攣縮例にてスクリーニングする。(2)スクリーニングした酵素群のうち活性の異常が認められた酵素において、その原因となる遺伝子変異の存在の有無およびその遺伝子変異と本疾患との関連性等を検討する。(3)還元型グルタチオンを冠攣縮例に長期内服投与し、その治療効果を大規模臨床治験で検討する。 平成11年度において、いくつかの酸化ストレス感受性遺伝子に遺伝子変異を見出した。現在、同遺伝子変異の冠攣縮例における臨床的意義につき検討中である。さらに、還元型グルタチオンまたはプラシーボを冠攣縮例30名および非冠攣縮例30名にランダムに振り分け投与後、冠動脈内皮依存性拡張反応を検討した。その結果、還元型グルタチオンが冠動脈内皮機能を改善させることが明らかとなった。現在、これらの研究は、まだ継続中で平成12年度中に終了する予定である。
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