冠動脈攣縮(冠攣縮)は異型狭心症のみならず、心筋梗塞を含む冠動脈疾患全体の病態に大きく関与している。特に本邦において罹患頻度が高いことから、冠攣縮の発症機序に人種的・遺伝的要因が関与している可能性があるが、その詳細は未だ明らかではない。本研究者らは本症の発症機序の一因として酸化ストレスが関わっていることを示してきた。還元型グルタチオン(GSH)は細胞内レドックス制御に重要な役割を果たし、γ-glutamylcysteine snthetase(γ-GCS)がその産生の律速酵素となっている。今回の研究にて、我々はGSHの冠動脈内投与が冠攣縮例の冠動脈トーヌス亢進を抑制することを報告した。また、GSHの経口的投与にても末梢血管における内皮依存性拡張反応の改善を認めている。これらの作用機序として、GSH投与後のGS日血中濃度の上昇によるplasmaGSHperoxidaseの活性化が、血中のperoxidesを分解処理しその結果酸化ラジカルの低下がもたらされることが重要であることを示した。さらに我々はγ-GCS遺伝子にいくつかの多型が存在することを最近見出し、その病的意義に関して検討中である。よって冠攣縮例においては、γ-GCS遺伝子多型が関わることにより、γ-GCS活性が遺伝的に抑制され、その結果細胞内GSH濃度が低下し血管トーヌス亢進をもたらしていることが推測される。本研究を行うことで得られた知見によって、わが国に多く見られ、狭心症、心筋梗塞及び突然死等の虚血性心疾患の原因となる冠攣縮の病態が解明されるとともに、その診断・治療・予防法の新たな開発につながることが期待される。
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