研究概要 |
我々は冠攣縮性狭心症において、血管内皮型一酸化窒素合成酵素(eNOS)遺伝子に2つの重要な遺伝子変異(Glu298Asp,T-786→C)を見出し、それが冠攣縮と有意に連関していることを報告した。これらの遺伝子変異が単なるマーカーであるか否かは重要な検討課題であり、その解明に取り組んだ。この研究は、冠攣縮の病態解明の新たなる展開と、他の疾患の病態解析へと繋がる可能性を秘めている。Glu298Aspに関する機能解析では、変異蛋白の酵素学的な機能低下は認められなかったが、蛋白の細胞内での安定性に欠けることが示された。何らかの未知の酵素が変異蛋白に作用して、その分解を促進している可能性がある。GluからAspへの変異は、他の遺伝子にもかなり多く認められ、この変異が原因で蛋白の機能低下を引き起こす可能性は高く、種々の疾患の病態生理に関わってくるものと思われる。一方、T-786→Cに関しては、我々は既にLuciferase reporter gene assayにて変異遺伝子の転写活性が低下することを報告している。さらに、その変異部位に結合する蛋白が、転写因子replication protein A1(RPA1)であることを見出した。また、我々は、このRPA1が他の複数の遺伝子においても、eNOSと同様な遺伝子配列に結合することを見出している。RPA1はDNAのreplication、repair、recombinationに作用すると言われていたが、おそらく種々の遺伝子においてrepressorとして多彩な働きを有するものと想像される。 我々は冠攣縮と連関する他の遺伝子変異の検索を進めている。特に酸化ストレスに関係すると言われているparaoxonase(PON)を中心に研究を進めている。PONにはGln192Argが存在し、その変異体は抗酸化ストレス作用が弱いと報告されている。我々は同変異と冠攣縮との関係を検討したが、その結果、有意の連関を認めた。冠攣縮の発症は、eNOS以外の酸化関連遺伝子にも強く関係していることが示され、冠攣縮の発症機構における遺伝的要因の存在の重要性が今後益々問われるものと思われる。
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