研究概要 |
循環器疾患や高齢者の生命予後との関連が注目されている心拍変動,血管内皮機能,血圧日内変動の間の関係を基礎的,臨床的に検討し,以下の知見を得た。 NO合成酵素阻害薬を用いた動物実験で,NO合成の慢性阻害は血圧上昇と徐脈をもたらすが,この時,迷走神経活動を反映する心拍変動指標は増加するにも関わらず,変動の複雑性の減少を反映する1/fゆらぎの傾きは増加することがわかった。これは,従来,相関することが報告されていた迷走神経機能と心拍調節系の複雑性は乖離し得ること,心拍変動から推定される心拍調節系の複雑性にはNOを介する調節機能も関与していることを示す初めての知見である。 慢性心房細動107例の33か月間の追跡調査から心拍変動と生命予後との関連を検討し,aproximate entropy(ApEn)によって測定したR-R間隔変動の不規則性の減少は心臓死(9例)の発生と関連することを見いだした。なお,ApEnは脳卒中死(7例)とは関連しなかった。これまで心房細動例は心拍変動解析の対象から除外されてきたが,心房細動においても,ApEnなどの非線形特性は生命予後に関連する情報を含むことを初めて示した。 12週間の運動療法が,血圧日内変動,心拍変動,血管内皮機能に与える効果と相互作用を高齢高血圧および正常血圧例で検討し,次の知見を得た。高血圧,正常血圧例とも,運動療法前に夜間降圧を示す者(dipper)は,運動療法によって昼間の収縮期血圧が低下するが,夜間降圧を示さない者(nondipper)は昼夜とも血圧が変化しない。血流依存性血管拡張反応(FMD)による血管内皮機能は,nondipperの高血圧例のみで減少しており,かつこの群でのみで運動療法によるFMDの改善効果がある。何れの群においても,運動療法は24時間心拍変動を改善しない。これらの知見は,運動療法効果の機序の理解および臨床的な適応の決定に有用な情報となるものと考える。
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