研究概要 |
【目的】開心根治術後の弁膜症患者への運動トレーニングが運動耐容能と末梢血管拡張能に与える効果を検討した。【対象と方法】根治手術を施行した弁膜症患者35例(男性22例、女性13例、平均年齢59歳)を対象とした。大動脈弁閉鎖不全症16例、僧房弁閉鎖不全症19例で、術式は大動脈弁形成術8例、大動脈弁置換術8例、僧房弁形成術14例、僧房弁置換術5例である。入院中に加え退院後もトレッドミル、自転車エルゴメータあるいは歩行等による運動トレーニングを施行した群(運動群10例)と非施行群(非運動群25例)の2群に分け、術前と術後3ヶ月目の運動耐容能と末梢血管拡張能を比較検討した。 運動耐容能は症候限界性心肺運動負荷試験により、運動時間、最高酸素消費量(peak VO2)、嫌気性代謝閾値(AT VO2)を求めて評価した。血管拡張能は静脈閉塞性プレチスモグラフィーにより、上下肢の血流量(basal BF)、5分間阻血後の反応性充血時の最高血流量(peak BF)および総血流量(total BF)を求めて評価した。【結果】両群間で年齢、性、体格、術前のpeak VO2、AT VO2、運動時間に差はなかった。また、上下肢の血管拡張能にも差はなかった(上肢peak BF:20.1±2.0vs17.0±1.3,total BF;87.7±7.6vs76.6±5.1,下肢peak BF;14.2±2.1 vs 14.8±1.0,total BF;69.5±9.2 vs 60,3±4.1ml/min/dl)。術後3ヶ月目のpeak VO2は両群ともに増加した(運動群;17.8±1.0から21.0±1.4,非運動群;16.6±0.7から17.6±0.8ml/kg/min,いずれもp<0.05)。増加度は運動群が非運動群より大であった(Δpeak VO2;5.8±0.8 vs 2.9±0.7,p<0.05)。運動時間はpeak VO2と同様な傾向を示した。AT VO2は両群間で差がなかった。上肢のpeak BFとtotal BFは両群間で差がなかったが(peak BF;23.6±3.1vs21.0±2.0,total BF;97.1±11.1 vs 90.0±5.0ml/min/dl)、下肢では運動群で大であった(peak BF;20.1±2.0 vs 16.6±1.0,total BF;94.0±6.3 vs 75.1±5.3ml/min/dl,いずれもp<0.05)。Δpeak VO2およびΔAT VO2と下肢のΔpeak BFとの間には有意な正相関が認められた(それぞれr=0.38,r=0.40,p<0.05)。【総括】開心根治術後の弁膜症患者への積極的な運動トレーニングにより運動耐容能のさらなる増大が期待でき、それには鍛錬筋である下肢の血流増加反応が寄与していると考えられる。
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