研究概要 |
高血圧症の原因を探るために、延髄から仙髄までの神経系を取り出した「摘出脳幹-脊髄標本」という新しいシステムを用いて、交感神経中枢(延髄吻側腹外側RVLM)ニューロンの電気生理学的性質を、パッチクランプを用いた細胞内記録により調べた.この標本は入力(vagal afferent)-RVLM-出力(IML)という神経調節ネットワークが保持されている.高血圧SHRラット(新生児期)のRVLMニューロンの静止膜電位は-51±6mVで、正常血圧WKYラットと比べ浅かった。発火頻度もWKYの3.6Hzに対し、SHRでは5.1Hzと速かった。またアンジオテンシンII(AII)によりSHRでのみ8.9±1.9mVと高度の脱分極を認め、アンジオテンシン(AT1)受容体拮抗薬カンデサルタン(0.12μ mol/L)の灌流により、SHRのみ4.9±1.1mVの過分極と発火の減少を認めた。これらから、内因性AIIがAT1受容体を介してRVLMニューロンの電気活動を亢進させていること、カンデサルタンによるRVLMニューロンの抑制効果は高血圧動物において顕著であったことから、内因性AIIに対するRVLMニューロンの反応性の違いが、のちの血圧上昇の一因であることを見い出した。 一方,無麻酔ラットにおいて血圧,心拍数,腎交感神経活動,同じ側の腎血流量を同時記録し,それらの相関を線形のスペクトル解析、伝達関数、および非線形の相互情報量を用いて検討した.高血圧では正常血圧と比較して交感神経活動と血圧,腎血流量の相関の線形性(coherence)が高いことがわかった.一方、相互情報量により算出された線形と非線形をあわせた相関は両者で差がないことから,正常血圧ラットは高血圧ラットより非線形相関の要素が大きいことを示した.非線形性が高い、つまりカオス的である方が心血管事故が少ないことが臨床データからわかっており、私どもの結果と一致した.また相互情報量による時間遅れ(time delay)の値から,無麻酔ラットでは予想に反して腎交感神経活動が血圧や腎血流量よりも先行しているという,非線形相関の方向性を世界で初めて明らかにできた.
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