研究概要 |
1.研究目的:心不全心筋におけるCaハンドリングの異常を解明するために、後期心肥大および心不全モデル動物の摘出心を用いて、細胞内Ca動態を観察。Na/Ca交換系や筋小胞体(SR)など個々のCa調節機能および遺伝子発現の変化を評価した。2.方法:1)実験モデルの作成。Dahl食塩感受性ラットに6週令より高塩分食を与え、17-18週令にて圧負荷後期心肥大、22-24週令にて心不全として実験に供した。対照(正常心)としてDahl食塩抵抗性ラットを用いた。2)収縮性と細胞内Ca濃度([Ca]_i)の測定。摘出心をLangendorff法、Tyrode溶液にて定流灌流した。指示薬4μM fura-2を経冠動脈的に心筋に負荷し,光ファイバー照射測光ユニットを用いて340nm/380nmのUV励起光による500nmの蛍光強度比を、Ca transientとしてモニターした。同時に左室圧、心拍数を測定した。3)Na/Ca交換系活性の評価。Control条件およびSR機能阻害下(Caffeine前処置)にて、Tyrode溶液より低Na溶液(Na;70mM)に変換、一過性の[Ca]_i増加に伴うfura-2シグナルの上昇および減衰時間を測定し比較検討した。シグナルの変動がNa/Ca交換系を介することを確認するために、Sprague-Dawleyラットを用いて、交換系阻害薬KBR7943投与の影響を観察した。4)Ca-force-frequency relationshipによるSRの評価。ペーシング頻度を2.5-5Hzに増加させ、左室圧、Ca transientの振幅・拡張期レベルの変化を比較検討した。5)心筋よりTotal mRNAを抽出後、RT-PCR法にて各Ca調節系のmRNAの発現量を測定。3.結果:1)交換系阻害薬の投与にて、低Na灌流によるfura-2シグナルの上昇は有意に抑制された。2)低Na灌流による[Ca]_iの上昇および下降時間は、control条件ならびにSR阻害下ともに、正常心(SR阻害下:37.0±5.8,26.0±5.8sec)に較べ、後期肥大心(66.7±11.2p<0.05,55.8±10.6sec p<0.05)・不全心において延長した。3)Ca-force-frequencyにおいてpacingの増加に伴い、正常心では低頻度にて左室圧の増大がみられたが、後期肥大心では低頻度域より左室圧は減少した。またpacingの増加に伴い、後期肥大心では低頻度より拡張期[Ca^<2+>]_iの有意な上昇がみられた(ratio/3Hz:0.78±0.01vs0.68±0.02p<0.05)。4.結論:後期肥大心・不全心ではCaの細胞内への動員ならびに排出の両方が抑制されており、心肥大より心不全への移行との関連性が示唆された。SRまたはNa/Ca交換系の機能的な活性低下の関与が示唆された。
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