研究概要 |
Na^+/H^+交換系(NHE)は細胞外のNa^+と引き換えに細胞内H^+をくみ出すことにより細胞内pHを調節する重要な糖蛋白でほとんどの哺乳類の形質膜に存在する。これまで6つのisoformがクローニングされ心臓にはNHE-1が存在し,pH調節以外にも虚血再灌流傷害に重要な役割を果たすと考えられている。クローニングされたばかりのNHE-6は他の5つと異なり細胞形質膜でなくミトコンドリア内膜に存在すると考えられミトコンドリア内のpHや容量の調節に関係しているとされるがその役割は十分解明されていない。本研究の当初の目的は,このNHE-6の細胞内pH, Ca^<2+>動態,ミトコンドリアredox状態に及ぼす影響を研究することであった。NHE-6ノックアウトマウス,NHE-6過剰発現マウスの入手・作成が困難であり,H_2O_2やperoxynitrateを用いた心筋細胞傷害モデルの作成に1年半かけても成功しなかったなどの理由により目的を変更し,NHEと同様にミトコンドリアに存在しミトコンドリア容積の調節や心筋保護に重要とされるミトコンドリアK_<ATP>チャンネル(mitoK_<ATP>)に関する2つの実験を行った。用いた手法は,FAD関連フラボ蛋白のredox状態がmitoK_<ATP>開口活性の指標となることより,単離心室筋細胞を480nmの光で励起し530nmでの自家蛍光高度を測定した。薬剤の心筋梗塞サイズに対する影響はdual perfusionによるラット低流量虚血モデルを,虚血後の心機能回復の実験ではランゲンドルフ灌流心を30分虚血にし45分後の左室収縮圧の回復を指標とした。1つめの実験では,ニコランジルがmitoK_<ATP>を開口することを示し,梗塞サイズ縮小効果が5HD(mitoK_<ATP>ブロッカー)でブロックさせることを示した。2つめの実験では心筋保護薬として開発されたJTV-519(心筋保護効果の機序不明の新薬)がmitoK_<ATP>を開口させ心筋保護効果を有すること,またNHEの阻害薬(cariporide)と相乗効果を有し臨床上併用効果が期待されることを示した。
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