慢性心不全の進展と交感神経系やカテコールアミン分泌系などの液性因子との関連が注目を集めている。一方、交感神経系の亢進は慢性心不全に伴う致死的不整脈発生にも深く関わっており、動脈圧受容器反射機能などのストレスに対する交感神経活動の応答や交感神経活動による心筋の電気生理学的性質への影響を正確に評価することは、心不全患者における突然死の病態解明や予後把握に極めて重要と考えられる。本研究では、以下の3つの課題について基礎的研究および臨床研究を行った。 1)交感神経活動の亢進に動脈圧受容器反射が果たす役割について 筋交感神経活動記録を用いてヒトにおける動脈圧受容器反射を評価する新しい方法を開発し、血圧と交感神経活動の関係を明らかにした。動脈圧受容器反射の中枢弓伝達特性は1次の高域通過型フィルターを示し、その折点周波数は0.21±0.12Hzと推定された。末梢弓の伝達特性は2次の低域通過型フィルターを示し、その固有周波数は0.28±0.21Hz、減衰係数は0.95±0.42と推定された。total loopの定常ゲインは1.25±0.55と推定された。 2)心不全患者における致死的不整脈発生の基質としての心室再分極過程の異常について 心電図QT時間は、心拍数(RR間隔)と交感神経活動により調節を受ける。RR間隔とQT間のコヒーレンスによって両者の線形関係を定量化し、健常者と心不全患者で比較した。心不全患者ではRRの変動と関連のないQT時間の変動が大きく、交感神経活動の変動の影響をより強く受けていると考えられた。 3)交感神経系が心室再分極過程に及ぼす影響について 心拍数・心電図QT時間・筋交感神経活動の関係から突然の交感神経緊張がQT時間に及ぼす影響を推定する方法を開発した。突然の交感神経緊張により、初期にQT時間は一過性に延長し、その後徐々に短縮した。この結果は、動物実験で得られた結果とよく一致した。
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