申請者らは循環器疾患におけるAM(アドレノメデュリン)の臨床応用を目標とした基礎研究および臨床研究を遂行し、以下の研究業績を挙げた。 1.心筋梗塞による心不全モデルを作成し、慢性期にAMを経静脈投与し、AMの投与効果について検討した。AMはsham群、心不全群において血圧、末梢血管低抗、右室収縮期圧を有意に低下、心拍出量を増加させ、腎血流量、尿量、尿中Na排泄量を有意に増加させた。 2.腹部大動脈結紮による心肥大モデルを作成し、心臓のAM組織濃度、mRNAの経時的変化、ACE阻害薬やAMの慢性投与効果について検討した。左心室の組織AM濃度は左室重量とともに経時的に増加し、両者の間には正相関を認めた。AM mRNAは1日後のみ有意に増加した。ACE阻害薬は左心室組織AM濃度と左室重量を有意に抑制し、外因性AM投与も左室重量を有意に抑制した。 3.モノクロタリンによる肺高血圧モデル(圧負荷)と大動脈-下大静脈シャントモデル(容量負荷)を作成し、経時的に心臓AMの組織濃度、mRNAと他の分子マーカーを測定した。肺高血圧モデル、大動脈-下大静脈シャントモデルの両者において心室AM濃度は心室重量とともに増加した。一方AMmRNAは容量負荷でのみ有意に増加していた。β-MHC、α-actinなどの分子マーカーよりも心室AM濃度は鋭敏な変化を認めた。 4.心筋細胞、繊維芽細胞におけるAMの肥大や増殖に対する直接作用について検討した。心筋細胞においてAMはエンドセリン1で刺激時に有意に肥大促進作用を認めた。心室線維芽細胞においてはその増殖およびコラーゲン産生に対して抑制効果を認めた。 5.ヒト心不全例においてAMを経静脈的投与し、AMの効果について検討した。ヒト心不全において経静脈的AM投与は、血行動態、腎機能、内分泌機能を有意に改善した。 AMは心不全の病態に深く関与していると考えられ、経静脈的AM投与は心不全治療薬となる可能性が、心組織AMは不全心における生化学マーカーとなる可能性が示唆された。
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