申請者らはアドレノメデュリン(AM)の臨床応用を目指した基礎研究および臨床研究を遂行し、以下の研究業績を挙げた。 圧負荷と容量負荷の両心肥大モデルにおいて心室AM濃度は心室重量とともに経時的に増加し、両者の間には密な正相関を認めた。また心室AM濃度はβ-MHC、α-actinなどの心筋分子マーカーよりも鋭敏な変化を認めた。心筋梗塞ラットモデルでは、梗塞部においてAMの急性期のペプチドおよび遺伝子発現レベルでの高値を示した。さらに培養心臓線維芽細胞においてAMは増殖抑制、コラーゲン産生抑制効果を認めた。 心不全ラットにおいては、心不全の非代償期に腎臓の糸球体、集合管などでAMは増加するが、その機序としてAM遺伝子の転写活性の増加を伴うが、AM受容体遺伝子の転写活性に変化はなかった。腎組織AM濃度と尿中Na排泄量との間には正相関を認めた。 ラット心不全モデルを作成し、AMの経静脈投与効果について検討した。AMはsham群、心不全群において血圧、末梢血管抵抗、右室収縮期圧を有意に低下、心拍出量を増加させ、腎血流量、尿量、尿中Na排泄量を有意に増加させた。ヒト心不全例においてもAMを経静脈的投与し、AMの急性投与効果について検討したところ、AM投与は血行動態、腎機能、内分泌機能を有意に改善した。 ヒトにおいて血漿および尿中のAMの分子型を新しいIRMA法を用いて測定した。血漿中のAMは非活性型のAMが80%以上で、活性型は20%以下であった。両分子型ともに高血圧、腎不全、心不全、肺高血圧などの重症度とともに増加した。また尿中には血漿に比べ活性型AMの比率が高かった。 以上の結果からAMは循環器疾患の病態に深く関与し、病態を代償する方向で働いている可能性と、心室AMは心リモデリングの生化学マーカーとなる可能性が示唆された。さらに経静脈的AM投与はヒト心不全の新しい治療薬となる可能性が示唆された。
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