今年度の研究では、まずラット新生児の腎を麻酔下に摘出し、リンゲル液中で微小単離法を用いて、集合尿細管を腎髄質内層より分離し、倒立顕微鏡上に設置されたチャンバーに移動し、尿細管微小潅流装置を用いて管腔内外を潅流した。その上で、尿細管上皮内外の電位差を測定し、さらに管腔側の溶液中に、トリチウム水や14C尿素などのトレーサーを添加し、潅流後の採取液中のトレーサー濃度と潅流速度から、尿細管上皮の水と尿素に対する透過性を検討した。 また、さらにへンレの上行脚および下行脚においても、同様に上皮電位を測定しNaCl濃度勾配により生じる拡散電位についても経時的変化を観察した。この結果、出生直後および生後数日までのラット腎髄質部では、へンレの細い下行脚の経上皮電位がゼロだったものの、上行脚で7mV前後の自発電位が観察され、管腔側に加えられたブメタニドで抑制され、太いへンレの上行脚同様の能動的NaCl再吸収機構の存在が示された。 また、腎髄質内層集合管では、本来成熟時に存在しない負の経上皮電位が観察され、アミロライドで完全に抑制された。また、出生時の集合尿細管では、水透過性が行為利尿ホルモンの作用により促進されるが、尿素透過性は著しく低く、実際には尿素のリサイクリングによる腎髄質部の浸透圧勾配を形成できるシステムが存在していないことも明らかとなってきた。 以上の如く、出生時の腎髄質部では、成熟時とはまったく異なるイオン輸送システムにより、NaClの間質への貯留が行われていることが明らかとなった。来年度には、さらにその詳細を検討し、全体像を明らかにしたい。
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