研究概要 |
早期発見早期治療による心身障害予防が可能と考えられる代謝異常症を新生児期にスクリーニングするにあたり、新しい分析法であるタンデム質量分析法(TMS)が実用的かつ有用であるかどうかを検討した。 福井県、広島県、徳島県およびその他の府県の協力医療機関において、書面による同意を取得して新生児期濾紙血を収集し、TMSにより分析した。約81,000例をスクリーニングし、4例のプロピオン酸血症、1例のII型シトルリン血症を診断した。4例のプロピオン酸血症は診断時無症状であり、その後低蛋白食とカルニチン補充療法により、順調な発育発達が得られている。 TMS新生児代謝異常スクリーニングは有機酸代謝異常症、脂肪酸酸化異常症、カルニチンサイクル異常症、アミノ酸代謝異常症を対象疾患とする。これらの疾患と診断された患者の新生児期濾紙血を収集し、スクリーニングの精度についても検討した。有機酸代謝異常症については、プロピオニルカルニチン/アセチルカルニチン比を指標にしてカットオフ値を設定することにより、プロピオン酸血症とメチルマロン酸尿症の軽症例もスクリーニング出来ることを明らかに出来た。脂肪酸酸化異常症については、発病した患者では新生児期にスクリーニングが可能であることは確認できたが、軽症例では生後2,3日までの採血が必要であることが外国での経験から指摘されており、濾紙血作成日の検討が必要であると考えられた。また、アシルカルニチンプロフィールだけからは診断困難な疾患あるいは病態が存在することも明らかになり、スクリーニング後の精査では慎重な対応が必要であると考えられた。 TMSスクリーニングでは1〜2万人に1人の割合で患者が発見されることから、この新しいスクリーニング法は、心身障害の防止に有用であると考えられ、今後更に大規模なシステム作りを検討していく予定である。
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