研究概要 |
ビスダイアミン投与ラット、WKY/NCrjラット胎仔における冠動脈及び冠動脈奇形発生機序の検討 1.ラット胎仔において、組織学的に冠血管の存在が確認できたのは胎生14.5日以後であった。妊娠10.5日のWister系母ラットにビスダイアミン200mgを胃ゾンデにて注入し、胎生14.5日以後の胎仔で冠血管の存在を検索すると、冠血管の分布はコントロールに比して粗で、動脈幹と冠動脈との連続性がみられなかった。心外膜は心筋と接近せず血管叢の発達が不良で、冠血管内皮でのV-CAM、テネイシンの発現は減弱していた。菲薄な心筋には類洞が深く嵌入していた。 2.1.と同様にビスダイアミンを注入し、胎生10.5日から24匹の全胚培養を開始し、早期胚の変化を実体顕微鏡下で観察した。動脈幹分割前に心室腔の拡大、心筋の菲薄、流出路の蛇行が認められた。組織学的に冠動脈原基を認めず、動脈幹周囲のN-CAMの発現は粗で、明らかな連続性や塊としての存在は確認できなかった。また、テネイシンXとV-CAMの発現は認めなかった。 3.妊娠10.5日のWKY/NCrjラット胎仔についても同様の観察を行ったが、ビスダイアミン投与ラットと差はみられなかった。胎生15.5日の心外膜や心室壁におけるテネイシンとV-CAMの発現は、ビスダイアミン投与ラットより強くコントロールと差がなかった。 4.妊娠10,11,12日にビスダイアミンを投与し、新生仔の心血管奇形について形態的に検討した。妊娠10日投与群では全例で大動脈弓の異常があったが動脈幹分割異常はなく、妊娠11日投与群では93%に、妊娠12日投与群では32%に動脈幹奇形がみられた。しかし、冠動脈の奇形は動脈幹分割異常を認めた妊娠11日と12日群にのみ、この頻度に比例して認められた。 以上より、動脈幹分割の異常により冠動脈原基の発生異常が、心外膜の発生異常により冠血管の分布異常を生じることが示唆された。冠動脈原基の発生に神経堤細胞が関与するかどうかを明らかにすることはできなかったが、これは心臓発生における大きな課題であり、今後検討していきたい。
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