発育期脳へのウイルス感染による脳形成異常の発生機序には、感染細胞の細胞死、アポトーシスの誘導の有無、持続感染による細胞機能の変化やサイトカインを介する非感染細胞への障害、などが重要視されている。本研究では、発育途上の中枢神経組織において、ウイルス感染によって惹起される神経細胞死が脳形成異常の発生にどのような役割を果たすかを明らかするために、ハムスターの中枢神経系に親和性を有する神経親和性株のムンプスウイルス(Kilham strain)を、ハムスターの大脳皮質神経細胞の生成が開始される胎生12日目に接種し、脳の組織学的な検索を行った。抗ムンプスウイルス抗体およびvimentin抗体を用いた免疫組織染色の結果から、ウイルス抗原は脳室周囲のgerminal cell、中間層のradial gliaおよび脳室面から脳表に達するradial glial fiberに陽性であった。主な病理所見は脳室拡大、大脳皮質およびgerminal layerにおける出血と壊死、さらに、脳表におけるmicrosulciおよび大脳外套におけるcleftの形成であった。これらのうち脳表において得られた病理所見は臨床的には各々、多小脳回症および裂脳症に極めて類似していた。本実験で観察されたcleftは、感染によりradial fiberが障害された結果、移動の支えを失った脳室周囲のgerminal cellの増殖が関与しているものと推察された。
|