本研究では、FISH法を用いて乳児白血病においてMLL遺伝子以外の新たな11q23領域の白血病関連遺伝子を検索することを目的とした。乳児白血病共同研究ではALL61例が登録され、染色体分析で11q23領域の異常を認めたのは34例で、t(4;11)23例、t(11;19)4例、t(9;11)3例、その他4例)であった。サザン法では68%でMLL遺伝子の変異を検出し、特に6ヶ月未満では83%と高率であった。しかし、inv(11)(p13q23)の1症例を除くと、11q23異常の症例はサザン法でもMLL遺伝子の変異を認めた。一方、AML31例の解析では、FAB分類M4/5の21例中11例で11q23領域の異常を認め、全例が均衡転座であった。サザン法では11q23領域の転座全症例を含んだ12例でMLL遺伝子の再構成が検出された。M4/5以外の10例では、11q23異常の症例はなく、正常核型の1例でMLL遺伝子の再構成が見られた。結果としてサザン法でMLL遺伝子再構成のない11q23異常の症例は、ALLのinv(11)(p13q23)のみであった。この症例についてMLL遺伝子を含むCD3YACをプローブとしてFISH法を行ったが、CD3YACプローブのシグナルはスプリットしていた。そこで制限酵素を変更したサザン法を施行したところ、通常のBamHI/HindIII消化では再構成が認められないが、EcoRI消化では再構成が認められた。そのため、この症例においてもMLL遺伝子が再構成していることが明らかとなった。即ち、乳児白血病症例では染色体核型とMLL遺伝子変異は密接に相関していると思われた。次に、正常核型と報告されMLL遺伝子の再構成が認められた3例を対象として、dual color FISH法(江口ら)による検討と行ったところ、2例でmasked t(4;11)が、1例でmasked t(10;11)が認められた。以上から乳児白血病では、染色体核型が一見正常でも分子生物学的手法によりMLL遺伝子の再構成を確認する必要があり、masked MLL遺伝子再構成の検出にはdual color FISH法が有用と考えられた。
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