研究概要 |
COX-2は,発癌物質であるTPAにより誘導される遺伝子群(TPA-induced sequence;TIS)のひとつとして1990年初期に発見され,関節リウマチ等の炎症性疾患でmRNAや酵素蛋白量の発現が上昇していることより,主に炎症の機序に関与していると考えられている.我々は,昨年度までの研究で化膿性髄膜炎等の重症細菌感染や,強い炎症所見を示す川崎病で,多核白血球(PMN)のCOX-2mRNAが強く誘導され,外的に投与したLPSでも同様の機序が存在することも明らかにしてきた.川崎病の冠動脈病変の機序のひとつにPMN産生elastaseによる血管傷害が考えられるが,このelastascの抑制を目的にelastase阻害剤ulinasatinを治療に使用している.今回,川崎病急性期の患者のPMNで誘導されるCOX-2mRNAに対するulinasatinの効果を検討し,その作用機序について解析をおこなった.PMNの90%以上は好中球からなるが,好中球におけるCOX-2の最終産物としてはPGE2とTXA2がその主なものである.TXA2は強い血小板の凝集作用を有し,血管病変の進展に関与していると考えられる,川崎病の急性期にはPMN産生TXA2(安定代謝物TXB2をRIAで測定)は著明に上昇した.これはCOX-2のmRNAの誘導によるものであることが明らかとなった.Ulinastatinの投与により,COX-2mRNAの発現は明らかに抑制され,同時にPMN産生TXA2値も有意に抑制された.これはUlinastatinの新しい薬理作用であり,本来のelastase阻害剤としての作用に相加的に作用するものと考えられる.
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