1988年からこれまで慢性肉芽腫症にかかわる活性酸素産生酵素を構成する蛋白の精製や遺伝子のクローニングおよび患者遺伝子解析を行ってきた。1994年から同疾患患者の治療に遺伝子治療を考え、臨床応用可能なウイルスベクターの開発を行ってきている。その間、開発してきた、または共同研究で使用してきたウイルスベクターで予測される臨床応用の際の問題点が明らかになってきた。すなわち、蛋白発現効率が悪いこと、高ウイルスタイターのベクターが取れにくいこと、せっかく高い効率で遺伝し導入できても遺伝子導入後に蛋白発現が無くなったり、弱くなったりすることである。これらは実際の遺伝子治療を考えたとき、非常に重要な問題と考え、遺伝子導入後の蛋白発現効率とその安定的な発現がウイルスプロモーターのメチル化による不活化によるのではないかと考えられ、メチル化を起こりにくくしたMNDレトロウイルスベクターの開発を目指した。このMND-gp91ベクターを用いた今回の研究により、安定した、しかも蛋白発現効率のよいベクターの開発が期待され、実際臨床応用に入ったMFGS-gp91.293.SPAベクターとは違い、次世代のベクター系だと考えられた。 そこで、日本で開発された高率なレトロウイルスプロジューサー細胞として知られたPAMP51細胞にMND-gp91プラスミドをtransfectし、MND-gp91/PAMP51レトロウイルスのクローニングを試みた。しかし、このベクターは選択マーカーを持っていないため、FACSのみによる解析となり、ウイルスの力価が1-2X107ウイルス/mlのMFGS-gp91.293.SPAベクターと比較するとMND-gp91/PA317のウイルスの力価の2〜3倍(すなわち1〜2X105)でしかなく、十分な遺伝子導入実験が出来なかった。またこのMND-gp91/PAMP51レトロウイルスを用いて、患者B細胞への遺伝子導入実験を行ったが、4〜5%の活性回復しか得られず、導入前後での不活性化による影響を十分確認できなかった。 一方、遺伝子治療に先立つサイトカイ療法では、一連の慢性肉芽腫症患者遺伝子解析から、世界で恐らく2例目となるIFN-g反応性の家系を確認し、それがIFN-gによるスプライス変化を来すことによる事を初めて明らかにした。同様な変異を持つ患者が現在まで8家系報告されており、サイトカイ療法の更なる確認が必要と考えている。
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