急性脳症は小児期の重篤な疾患の一つであるが、いまだその発症機序は不明である。しかし、それに関連する因子の一つとしてインフルエンザウイルス感染症などがあげられてきた。これは、冬期のインフルエンザの流行時期と脳症患者数の増加が一致すること、さらに、ウイルス抗原の証明や、血清特異抗体価の上昇などからその関与が明らかにされてきた。さらに、1999-2000年シーズンにおける急性脳症患者の検討から、厚生省研究班は解熱剤として用いられる抗炎症薬の関与についても報告し、同薬剤の使用注意を促している。一方、近年の研究から急性脳症の病態は急性ウイルス感染などを契機に惹起された血液脳関門の破綻、サイトカインの異常産生とそれにひきつづく組織障害であるとされつつある。そこで、その治療方針としては、サイトカインの異常産生の抑制、興奮性アミノ酸などによる二次的な神経細胞傷害の予防、脳浮腫の予防、血液脳関門破綻の阻止などがあげられる。そこで、我々は脳低温療法とステロイド大量療法さらに血漿交換療法を小児急性脳症に対する治療法として導入することとした。この方法については、平成12年秋の厚生省研究班のインフルエンザウイルス関連急性脳症に対する治療法案の一つとしても採用されている。 当施設ではこれまでに約10症例にこの新しい脳軽度低温療法を実施し、各種サイトカインの測定を始めとした詳細なデータを蓄積しつつある。この治療法の導入により従来の治療法と比較してその予後は良好な結果が得られつつある。今後さらに症例数を増やし、各種データの蓄積を行うと同時に今後小児におけるこの治療法の確立を目指したいと考えている。しかしながら、2000-2001年シーズンにおけるインフルエンザウイルス感染症の流行は前年の1/10以下と少なく。これまでのところ急性脳症患者の入院はなく、新たな治療を実施する機会がない状況である。
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