研究概要 |
亜急性硬化性全脳炎(SSPE)は麻疹ウイルスの遅発性感染によって起こる小児の進行性かつ致死性の疾患であり,効果的な新しい治療法の確立が切望されている。この疾患への遺伝子治療の応用を考えた場合,ウイルス感染細胞に選択的に治療遺伝子を運搬するターゲティングの手段が不可欠であり,その遺伝子発現に伴う抗ウイルス効果や殺細胞効果によって感染の拡大を防ぐことが基本戦略となる。 SSPEにおいては細胞融合能を持つSSPEウイルス感染脳細胞がターゲットとなる特徴を持つ。それゆえ,直接の殺細胞効果を期待するかわりにprodrug活性化(自殺)遺伝子発現ベクターDNAを選択的に感染細胞に導入し,発現させ,その後,prodrug投与で感染細胞を殺すという自殺遺伝子治療法がより安全と考えられる。そこでprodrugとして5-fluorocytosine(5-FC)を,prodrug活性化遺伝子として大腸菌由来のcytosine deaminase(CD)を用いたSSPEの新たな特異的治療法の開発をめざすこととした。 まず,ウイルス感染細胞に選択的に自殺遺伝子を導入する方法を検討するため,green flhuorescent protein(GFP)の発現を指標にその導入の選択性を評価した。昨年度はGFP遺伝子発現ベクターを構築し,この発現プラスミドDNAをカチオン性脂質であるリポフェクトアミンプラス,リポフェクトアミン2000を用いてトランスフェクションし,ウイルス感染細胞(syncytium focus)に選択的に蛍光発現がみられるかどうかで判定した。今年度はさらにリン酸カルシウム法や他のカチオン性脂質(リポフェクトアミン,リポフェクトエース,リポフェクチン,セルフェクチン)についても検討を加えた。結果は実験によりばらつきがあり,遺伝子導入方法についてはさらに実験条件を検討する必要があると思われた。一方,SSPEモデル動物系樹立のため,サイトカラシンD処理による擬似ウイルス粒子を作製してSSPEウイルス脳内接種を行い,その発症条件を検討した。数十から数百ウイルス粒子の接種でほぼすべてのハムスターが接種後4-16日で発症し,神経症状を呈して多くは1-2週間で死亡した。これにより遺伝子治療効果を見るためのSSPEモデル動物の作製が可能であることが判明した。
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