X連鎖慢性肉芽腫症(X-CGD)の遺伝子治療ベクター改良のため、遺伝子導入効率・発現効率改善に寄与するシスエレメントを検討した。バイシストロニック・レトロウイルスに組み込んだ治療用gp91遺伝子と緑色蛍光蛋白質(GFP)マーカー遺伝子の発現解析では、遺伝子導入効率や長期発現においてはMSCVの末端繰り返し配列やプライマー結合部配列が、高レベル発現にはMFGのスプライシングシグナルが有利だった。そこでMSCVとMFGの上記シスエレメントを組み合わせて新しいベクター骨格(MGK)を作製し、gp91とGFP遺伝子を組み込んだ。これを用いたX-CGDマウスの治療実験にて、高い遺伝子導入効率と良好な発現が得られ、MGKベクターの有用性が示された。さらに、遺伝子導入細胞の体内増幅にも取り組んだ。我々が開発中の選択的増幅遺伝子とGFP遺伝子を共発現するバイシストロニック・レトロウイルスベクターを構築し、マウス骨髄細胞に遺伝子導入後、レシピエントマウスに移植した。選択的増幅遺伝子がコードする顆粒球コロニー増殖因子受容体と水酸化タモキシフェン特異的ステロイド結合ドメインとの融合蛋白質は、ステロイド投与により細胞増殖を促す。遺伝子導入骨髄細胞を移植したレシピエントに水酸化タモキシフェンを投与したところ、薬剤投与群の末梢白血球GFP陽性率が増加したのに対し、非投与群では低下し有意差を示した。増加した白血球は多くが顆粒球・単球であり、慢性肉芽腫症遺伝子治療における標的細胞系列であるため、治療効果の点から望ましいと考えられた。
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