昨年度は塩基性線維芽細胞増殖因子(FGF-2)が神経幹細胞の増殖動態にどのような影響を及ぼすかをマウス大脳皮質組織培養系を用いて検討し、FGFが細胞周期のG1期において娘細胞の分化を阻害すること、すなわちQ fraction(Q)を減少させることを示した。これはFGFが広義のmitogenであることを大脳皮質の発生において立証したものである。 本年度はgap junction阻害剤、1-octanol(OCT)が神経幹細胞の増殖・分化に及ぼす影響について検討した。gap junction(GJ)は脳室層神経幹細胞を連結することで情報伝達に重要な役割を果たしており、大脳皮質発生後期には減少する。その機能を阻害すればanti-mitogen様の効果、すなわち増殖抑制、分化誘導がおこると予想される。 胎生13日胎仔の大脳皮質組織片をコラーゲンゲル内で培養し、培養液にOCTを添加した群と添加しない群(対照)について、ブロモデオキシウリジン(BUdR)持続曝露(cumulative labeling法)により細胞周期長を、トリチウム標識チミジン・BUdR時間差投与(double labeling法)によりQを測定した。 OCT投与により、細胞周期の長さは不変、Qは著しく増大した。Qの変化は皮質発生が先行している大脳皮質外側部で認められ、遅れている内側部では認められなかった。以上、OCTは細胞周期長には影響を与えずに、Qを増大、すなわち神経幹細胞を分化誘導することが示された。また、その効果は発生がより進行している部位においてのみ認められた。今回の知見は、GJが神経幹細胞の増殖・分化のコントロールに重要な役割を果たしていることを示したものである。昨年度の業績とあわせ、mitogen(FGF)とanti-mitogen(OCT)が組織発生において果たす役割について、組織培養を用いて定量的に検討した点が重要な功績であると考える。
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