マウスInversinあるいはLefty遺伝子の欠失によって左右軸異常を呈することを根拠に、これらの遺伝子のヒト相同遺伝子の変異によって内臓錯位・内臓逆位が発症するという仮説をたてて検証した。初年度は1)内臓逆位・内臓錯位の患者100名余を対象としてヒトLEFTYAの翻訳領域内の遺伝子変異をスクリーニングし変異を同定した。2)ヒトINVERSINの遺伝子構造を決定した。本年度はINVERSINの遺伝子変異スクリーニングを行った。右胸心、心室中隔欠損、修正型大血管転位、肺動脈閉鎖を呈する女性患者1名で、第8エクソン内にアデニン塩基からグアニン塩基への置換が認められた。この塩基置換によりINVERSIN蛋白の第371番目のアミノ酸がセリンからグリシンに置換される。このアミノ酸の置換はアミノ末のアンキリン様繰返し配列内に認められた。このアミノ酸置換は以下の理由により内臓錯位の発症に関与している可能性が高い。(1)このアミノ酸置換は正常人100人に認められなかった。(2)アンキリン様繰返し配列は核内移行に関与し、機能的に重要な領域である。(3)変異を含む領域におけるマウスInversin蛋白配列とヒトINVERSIN蛋白配列との相同性は極めて高い。セリン塩基もマウス配列において保存されている。また内臓錯位を呈する男性患者2名で、第12エクソン内にグアニンからチトシンへの置換が認められた。この塩基置換によりINVERSIN蛋白の第650番目のアミノ酸がアラニンからプロリンに置換される。このアミノ酸置換は正常人100人に認められず、発症に関与している可能性が考えられる。以上の成績から、lNVERSINの変異が内臓逆位・内臓錯位の発症に関与すると結論した。
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