胎生期動脈管の拡張は低酸素とプロスタグランジンEによることまで、確定している。私達の研究では以下の如く、一酸化窒素(NO)による拡張の生理的重要性を証明した。即ち、ラット胎生期の満期前(胎生期は妊娠15日から21日迄):妊娠19日に於いて、一酸化窒素が主に動脈管の拡張を行なっている。この時期にはプロスタグランジンEは拡張作用を行っていない。ところが妊娠満期:21日にはプロスタグランジンEが主に動脈管を拡張していて、一酸化窒素の拡張作用は軽度である。即ち、妊娠の時期によって一酸化窒素とプロスタグランジンEの役割が変化することが判明した。妊娠満期ではプロスタグランジン合成阻害薬(インドメサシン)と一酸化窒素合成阻害薬の併用で、非常に強い動脈管収縮が生じることが判明した。 これに相当する現象が臨床でも存在する。即ち臨床上、妊娠中のインドメサシン服用による胎児の動脈管収縮は妊娠末期に強く、妊娠24週以前には無い。妊娠24週以後はインドメサシンによる胎児動脈管の収縮は次第に強くなる。従ってラットの実験で得られた現象はヒトでもあり、ヒトの妊娠24週までは一酸化窒素が動脈管を拡張しており、24週以後はプロスタグランジンEが次第にその役割を担う。 この研究を臨床に敷衍すると、未熟児動脈管開存の治療にプロスタグランジン合成阻害薬(インドメサシン)が無効の場合に、インドメサシンと一酸化窒素合成阻害薬の併用が有効と推定される。従ってこの研究は新しい治療の基礎となる重要な研究である。
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