研究概要 |
1.目的;アトピー性皮膚炎の乳児は、気管支喘息を発症することが多く、皮膚症状から呼吸器症状ヘと進展していくアレルギーマーチが認められる。一方、気管支喘息の治療薬であるテオフィリンは、近年、気道における種々の抗炎症作用が判明してきている。そこで、この抗炎症作用が、未だ気管支喘息を発症していない食物アレルギーの病態にどのような影響を及ぼすか、サイトカイン産生の面から検討した。 2.対象および方法;食物アレルギー児を対象に、末梢血リンパ球・単核球(PBMCs)を採取。テオフィリン存在下にPMA,Ionomycinを加え培養。BFAを添加した後、細胞表面抗原、PerCP標識CD4抗体あるいはCD8抗体で染色。Lysing solutionにて細胞膜を穿孔し、FITC標識抗IFN-γ抗体およびPE標識抗IL-4抗体で二重染色し、フローサイトメーター(FACScan)にて細胞内サイトカインを測定した。IFN-γおよびIL-4産生細胞の占める割合を、テオフィリン非存在下での産生細胞の割合と比較検討した。 3.結果;テオフィリン存在下では、PMA,Ionomycin刺激によるIFN-γ産生は、CD4陽性細胞においては有意に増強した。しかし、CD8陽性細胞のIFN-γ産生は有意差が見られず、むしろ減少傾向であった。IL-4産生に関しては、CD4陽性細胞では一定の傾向は認められなかったが、CD8陽性細胞のIL-4産生は有意差はないものの、減少傾向を示した。 4.結論;食物アレルギーのあるアトピー性皮膚炎の患児では、ヘルパーT細胞のTh2が優位のため皮膚症状が発現すると考えられている。しかし、Th1/Th2のバランスを調節する薬剤は、今のところ見つかっていない。今回の検討で、テオフィリンがCD4陽性細胞のIFN-γ産生能を増強することは、患児の状態をTh1優位に傾かせ、アトピー性皮膚炎の治療に応用することが可能であると期待できる。しかも、CD8陽性細胞のIL-4産生能を低下させる可能性を秘めている。さらに、気管支喘息の治療薬でもあるテオフィリンを喘息発症以前より投与すれば、気道への抗炎症作用も期待でき、喘息発症の予防にも役立つと考えられた。 5.今後の展開;テオフィリンによるIL-5,IL-10,IL-16のmRNA発現に関する検討をしているが、これが明らかになれば、より詳細な薬効が判明し、ひいては食物アレルギーの病態の解明に近づくと思われる。
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