点頭てんかん(ウェスト症候群)とレノックス症候群の既往をともに有する剖検例において、その病因とは無関係に、脳幹部の神経伝達物質の表出が共通して障害されていることを、以前報告した。本年度は、前記所見の意義を検討するため、両てんかん症候群の同一剖検例において、てんかん発作発症に重要な側頭葉についての機能的解析を行った。対象は滑脳症4例と新生児仮死後遺症例4例。側頭葉皮質、扁桃体、海馬切片において、興奮性アミノ酸毒性制御に関係するといわれるグルタミン酸トランスポーター(グリア細胞系がEAAT1とGLT-1、神経細胞系がEAAC1)と、側頭葉皮質のGABA作動性介在神経の指標であるカルシウム結合蛋白(Calbindin D18KとParvalbumin)に対する抗体を用いた免疫組織化学染色を行い、正常対象4例と、両てんかん症候群の既往を有さない新生児仮死後遺症の疾患対象6例での解析結果と、比較検討した。グルタミン酸トランスポーターの表出は、両てんかん症候群の既往とは無関係に、疾患対象を含む全例で、海馬硬化の程度に比例して障害されていた。一方、カルシウム結合蛋白の表出は、てんかん症候群の既往とは無関係に、海馬・扁桃体で高度に障害され、側頭葉皮質では比較的保たれていたが、滑脳症例では一部異所性の表出も確認された。脳幹部病変とは異なり、側頭葉病変と両てんかん症候群既往との関係は明らかではなく、両てんかん症候群の病態生理における脳幹部病変の重要性が再確認された。今後は、両てんかん症候群の既往を有する、滑脳症と新生児仮死後遺症以外の、大脳皮質形成異常症や結節性硬化症などの剖検例において、同様な機能的な解析を進めていく予定である。
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