本年度は、点頭てんかん/レノックス症候群の病態生理をさらに明らかにするため、レノックス症候群の既往は有さず病理学的に大脳皮質に形成異常を示す点頭てんかん剖検例において、脳幹部神経の機能的解析を試みた。対象は、レノックス症候群の既往は有さないが、病理学的に大脳皮質に形成異常を示す点頭てんかん剖検例8例(死亡時5-24歳)と年齢相当の正常対照である。点頭てんかん剖検例には、孔脳症(24歳)と大脳白質内ヘテロトピア(16歳)が1例ずつ含まれ、他の6例は大脳皮質に軽微な形成異常を認めた症例で、そのうち2例では低酸素性虚血性脳症が、また、1例には頭部外傷が合併していた。脳幹部の連続切片で、神経伝達物質(Tyrosine hydroxylase、Tryptophan hydroxylase)、脳幹部聴覚伝導路を可視化するカルシウム結合蛋白であるParvalbumin、三叉神経橋核・脊髄路核に関連する神経ペプチド(Methionine-enkephalin、Substance P)に対する免疫組織化学染色を行った。ほぼ半数近くの例で、中脳中心灰白質(7例中3例)や上中心核(6例中3例)でのTyrosine hydroxylase陽性神経細胞の減少が認められた。さらに、中脳中心灰白質、橋被蓋網様核、延髄不確縫線核でのTryptophan hydroxylase陽性神経細胞が、それぞれ1-2例で減少していた。一方、Parvalbuminや神経ペプチドに対する免疫染色では異常を認めなかった。今回検討した点頭てんかん既往のみを有する大脳皮質形成異常例での脳幹部病変は、以前報告した点頭てんかん/レノックス症候群の既往を有する滑脳症や低酸素性虚血性脳症後遺症でみられた病変より軽度であった。脳幹部の神経障害はレノックス症候群への増悪に関与している可能性が示唆された。
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