研究概要 |
マクロファージの遊走阻止因子(MIF)は25年前に、リンパ球から放出される炎症性サイトカインとして発見された蛋白質である。その作用はマクロファージを炎症部位に集める免疫機能を有すると考えられてきた。その後、1990年代にBucalaらのグループにより下垂体やマクロファージより分泌される蛋白質として再発見されクローニングされたという経緯があり、サイトカインでありホルモンでもあるという興味深い蛋白質である(Bernhagen et al.Nature,1993)。彼らの報告によると、MIFはエンドトキシンショックの増悪因子であるため、MIFは炎症反応において極めて重要な役割を果たしていることが示唆されている。活性化されたTリンパ球やマクロファージによって産生されるMIFはマクロファージの遊走阻止因子である他、多機能因子でもあることが報告されているが、その生物学的作用の大部分は未だ不明である。我々は様々な組織、細胞においてMIFの発現を確認した。とりわけヒト皮膚に注目し、表皮の基底細胞におけるMIFの強い発現を報告してきた(Shimizu et al.FEBS lett 1996)。さらに我々は紫外線の刺激により皮膚からMIFが産生されることを明らかにした(J Invest Dermatol 112,210-215,1999)。またMIFの炎症性皮膚疾患への関与について研究を進める過程で、アトピー性皮膚炎患者、喘息患者の血清中でMIFの濃度が上昇することを確認し、さらにPBMCや好酸球などの細胞のMIFの産生を確認している(J Allergy Clin Immunol 104,659-664,1999 : Clin Exp Allergy in press)。最近我々は、組織の創傷治癒にMIFが重要な役割を果たしていることを明らかにした(Semin Thromb Hemost 25 : 569-73 1999 ; Biochim Biophys Acta 1500 : 1-9,2000)。これは、MIFの生理機能として成長因子という重要な機能を見出したのである。さらに我々はメラノーマ細胞株やがん組織でMIFの発現が強く認められることやMIFのアンチセンスRNAの導入によりがん細胞の増殖が顕著に抑制されることを確認しており、本タンパク質は細胞の増殖に重要であり新たな細胞増殖因子と考えている。固形腫瘍の増殖に必須な腫瘍血管に病的血管新生が認められることが知られている。最近我々はマウスを使った実験で、MIF抗体を投与することにより、メラノーマ細胞血管新生の抑制効果を確認した(Biochem Biophys Res Commun 260,751-758,1999)。これはメラノーマ細胞の増殖抑制に新たな展望が期待される研究内容である。
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