1.マクロファージの遊走阻止因子(MIF)は表皮基底細胞内に強く発現していることから、細胞増殖に関与している可能性が考えられた。そこで表皮細胞およびメラノサイトの細胞増殖能におけるMIFの役割を調べた結果、MIFはこれらの細胞の増殖を促進させた。また、皮膚組織の創傷治癒にMIFが重要な役割を果たしていることを明らかにした(Semin Thromb Hemost 1999;Biochim Biophys Acta 2000)。つまりMIFの生理機能の一つとして成長因子という重要な機能を新たに見出したのである。MIFが腫瘍増殖や転移に非常に重要な因子であるという知見が蓄積されているが、最近になりMIFがp53腫瘍抑制活性を抑制する働きがあることが報告されてから、MIFと腫瘍増殖との関連が大いに注目されている。我々はこれまでにG361等のメラノーマ細胞株においてMIFの発現が強く認められるという知見を得ている(Biochem Biophys Res Commun 1999)。さらに我々はメラノーマ細胞株にMIFのアンチセンスRNAを導入することにより細胞の増殖が顕著に抑制されることを示しており、本蛋白質は細胞の増殖に重要な役割を果たしている新たな細胞増殖因子であることを初めて明らかにした。2.紫外線照射による光発癌が起こることが知られているが、この発癌機構には紫外線による直接の細胞DNAへのダメージの他に紫外線照射による免疫抑制も大きく関与している。紫外線誘導の免疫抑制にはTNF-αを含む炎症性サイトカインが重要な役割を果たしており、同じく炎症性サイトカインであるMIFの皮膚免疫への関与について紫外線照射との関連性を含め検討した。我々の研究から紫外線の刺激によりヒト皮膚からのMIFの産生が増強されることが明らかになった(J Invest Dermatol 1999)。3.MIFはエンドトキシンショックの増悪因子であるため炎症反応において極めて重要な役割を果たしていることが示唆されていた。そしてMIFの炎症性皮膚疾患への関与について研究を進める過程で、アトピー性皮膚炎を代表とするアレルギー疾患におけるMIFの重要性が明らかになった(J Allergy Clin Immunol1 1999)。さらに血中MIFの値と尋常性乾癬や重症の円形脱毛症患者の病勢との相関がみられることが明らかとなった(J Invest Dermatol 2001;J Invest Dermatol 2001;J Invest Dermatol in press)。さらに自己免疫疾患を含めた多くの皮膚疾患とMIFとの関連が明らかとなることが予測される。
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