研究概要 |
私共が既に色素細胞に発現するCキナーゼ(PKC)分子種として明らかにしていたα,β,δ,ε,ζ分子種に対するアデノウイルスベクターを作製した。さらに、悪性黒色腫のオートクリン増殖因子であり、かつPKCを活性化させうるinterleukin-8(IL-8)、メラニン生成に影響を与える可能性のあるphosphatidylinositol 3-kinase(PI 3-kinase)のconstitutive active体およびdominant negative体、およびPI 3-kinaseにより活性化を受けるAktのconstitutive active体に対するアデノウイルスベクターをそれぞれ作製した。これらのアデノウイルスベクターを用いて以下の事項を明らかにした。 1.α分子種を欠損する悪性黒色腫細胞株G361に、アデノウイルスベクターによりα分子種を発現させると情報変換酵素であるホスホリパーゼD活性が著明に増加する。 2.SCIDマウスに移植したヒト皮膚にIL-8をアデノウイルスベクターにより過剰発現させると好中球による潰瘍病変が形成されることを示し、壊疽性膿皮症のモデルとなりうることを提唱した。 3.メラニン生成能を有する悪性黒色腫細胞において、PI3-kinaseまたはAktのconstitutive active体に対するアデノウイルスベクターを発現させるとメラニン生成が抑制され、PI3-kinaseのdominant negative体に対するアデノウイルスベクターを発現させると逆にメラニン生成が亢進することを見い出し、メラニン生成経路においてPI3-kinase/Akt経路が関与していることを直接的に示した。 4.メラノーマに対する免疫遺伝子療法の基礎研究として、interleikin-12(IL-12)遺伝子をマウス悪性黒色腫細胞株B16に導入し、抗腫瘍効果の検討を行った。その結果、IL-12遺伝子導入B16細胞の同系マウスにおける腫瘍増殖は強く抑制され、この抑制効果はマウスを抗CD4抗体で処理することにより増強されることを見い出した。抗CD4抗体投与によって、IL-12遺伝子導入B16melanomaを拒絶するマウスもみられ、そのなかには白斑様の体毛変化をみとめるものも出現した。この現象は、臨床的に認められるメラノーマ関連白斑に相当するものであり、マウスモデルとして有用であると考えられた。
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