研究概要 |
【目的】ヒト表皮角化細胞の増殖はEGF receptorとそのリガンドによって担われている部分が多く、autocrineなリガンドとしてHB-EGF,TGF-a,Amphiregulin,epiregulinが同定されている。これらは膜アンカー型増殖因子であり、創傷治癒時においてこれらの因子の膜アンカー型から遊離型への変換の意義を明らかにするために変換酵素阻害剤を用いて解析を行った。 【方法】本年度はマウスの皮膚に8mmの全層皮膚欠損を作成し、変換酵素阻害剤による創傷治癒に及ぼす影響を検討した。また、角化細胞のEGF familyによる遊走におけるシグナル伝達について、培養ヒト角化細胞をシリコンラバーを用いた創傷治癒モデルで解析した。 【結果】マウス創傷治癒モデルにおける解析では、変換酵素阻害群無添加群では7日目には創傷治癒が認められたが、添加群では創傷治癒が遅延し、7日後でも創傷治癒機転は確認されなかった。この添加群に合成HB-EGFを添加することにより創傷治癒は回復した。角化細胞の創傷治癒モデルにおけるシグナル伝達について、STAT分子に注目しウェスタンブロット法並びに共焦点レーザー顕微鏡を用いて解析を行った結果、創傷作成後すみやかにSTAT3の燐酸化、核内移行が認められた。さらにSTAT3の機能を阻害するdominant negative効果を有する変異体STAT3をアデノウィルスベクターを用いて同様の解析を行った結果、細胞の遊走は完全に阻害された。すなわち、EB-EGFのプロセッシングによる角化細胞の遊走にはSTAT3の燐酸化と核内移行が必要であることが明らかとなった。 【考察・結論】創傷治癒での角化細胞の増殖・細胞遊走にはプロセッシングが大きく関与しており、治癒機転のごく早期の段階ではEGF family,とくにHB-EGFが増殖因子間の相互作用、制御に重要な役割を果たしていることが明らかとなった。また、角化細胞のEGF familyによる細胞遊走にはSTAT3が重要な役割を果たしていることが示唆された。
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