アラキドン酸カスケードのヒト皮膚悪性腫瘍の進展における役割を、ヒト皮膚扁平上皮癌(HSC-5)とエクリン汗腺癌(EcCa)の樹立細胞株、及びコントロールとして不死化非腫瘍性ケラチノサイト細胞株(HaCaT)を用いて検討した。 まず皮膚癌細胞株ではサイクロオキシゲナーゼ(COX)-2の蛋白発現がコントロール細胞に比較して有意に上昇しており、COX-2の選択的活性阻害剤であるNS398で処理すると増殖が抑制されることを明らかにした。更に、COX-2のアンチセンスオリゴヌクレオチド鎖をトランスフェクトするとCOX-2の発現が抑えられ、癌細胞の増殖は活性阻害剤よりも強く抑制されることを明らかにした。 そこでCOX-2の発現を抑制し得る物質を探し、その物質の細胞増殖に及ぼす影響を検討した。これまでに、いくつかの臓器で抗腫瘍効果が報告されているレチノイン酸と抗酸化剤に関してCOX-2の発現を抑制するか否かを検討した。レチノイン酸としてall-trans-retinoic acid (all-trans-RA)と9-cis-retinoic acid(9-cis-RA)、抗酸化剤としてN-acetylcysteine(NAC)とpyrrolidinedithiocarbamate(PDTC)を用いた。9-cis-RAとPDTCはCOX-2の発現を抑制したがall-trans-RAとNACには抑制作用はなかった。9-cis-RAとPDTCはCOX-2産物であるプロスタグランジンE_2の産生を濃度依存的に抑制した。更にこの両者は細胞の増殖を有意に抑制した。 以上の一連の結果は、COX-2が皮膚癌の進展に重要な役割を果していることを示し、COX-2を介するcancer chemopreventionの可能性を大いに期待させるものである。
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