研究概要 |
EBウイルス関連NK/T細胞リンパ腫の地域特異的発症と,腫瘍の進展に関わる因子を検討した.本邦症例のEBウイルスサブタイプは,EBNA2遺伝子型:typeI(またはA),LMP1遺伝子型:Xho1 site(-),30bp del(+)が主なものであり,中国の上咽頭癌から分離されるEBウイルスと類似で,細胞形質転換能の強いウイルス遺伝子を有するサブタイプであった.しかし,このサブタイプは,正常人からも分離されるので,このウイルスの蔓延だけでは地域特異的発生は説明できず,発現されるウイルス抗原に対するHLA拘束性免疫応答異常や免疫学的寛容について解析が重要である.EBウイルスは,EBNA遺伝子のFp/Qpプロモーターを使用し,EBNA1とLMP1を発現しているが,そのほかのウイルス抗原の発現は制限されていた(LatencyII).LMP1は細胞障害性T細胞(CTL)の抗原エピトープとなりえるため,患者ではLMP1に対する免疫応答の異常が示唆された. EBウイルスは,宿主の免疫反応を抑制するviral IL-10や,アポトーシスを阻止するbcl-2ホモログをコードしている.これらの分子の発現を自験例で検索したところ,急激な経過をとって死亡した例ではviral IL-10とbcl-2ホモログの両方の発現が認められた.これらの分子の発現のメカニズムは未解決である. 本研究の結果から,EBウイルスは宿主の免疫反応の標的になるウイルス抗原の発現を制御するとともに,ウイルスがコードしているLMP-1(TNF受容体ファミリーのひとつ)のようなviroceptorの発現により細胞増殖を有利にし,また,IL-10のようなvirokineを産生することで宿主の免疫反応を減弱させたり,bcl-2ホモログの産生によってアポトーシスを回避する機構が作働していると考えられた.
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