表皮は基底層における角化細胞の増殖と、それに続く一連の終末分化のプロセスによって維持され、角化細胞のプログラム細胞死とともに、特異な角質関連タンパクと脂質生合成系の遺伝子発現・活性化により、正常な角質が形成される。Transglutaminase 1(TGase1)遺伝子は表皮特異的に発現する遺伝子であり、常染色体劣性葉状魚鱗癬の原因遺伝子のひとつである。しかし、これまで、TGase1遺伝子の転写活性化の病態は乾癬以外には知られていない。研究代表者らは、ヒトTGase 1遺伝子上流2.5kbをlacZにつないだ遺伝子をもつトランスジェニックマウスにおいて、創傷縁にlacZの発現が増強されることを見いだし、TGase1遺伝子発現が、創傷治癒過程で活性化される可能性を考え、in situ hybridizationによりTGase1遺伝子発現の変化を観察した。その結果、TGase1mRNAは、創傷作成後2時間より創縁に誘導され、48時間まで高発現が維持され、その後創傷治癒が完了するにつれて発現が正常化した。したがって、TGase1遺伝子発現は受傷後の表皮において早期に誘導され、創傷閉鎖とともに漸減する転写調節システムの制御を受けていると推察された。さらに、ヌードマウスに移植したTGase1ノックアウトマウス皮膚に創傷を作製して観察したところ、創傷治癒の著明な遅延が観察された。以上の結果から、創傷治癒の病態においてTGase1遺伝子の転写活性化が不可欠であることが示唆された。
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