研究概要 |
昨年度の段階で,in situ hybridization(ISH)によりトランスグルタミナーゼ1遺伝子発現が創傷によって誘導されることを発見した.そこで,まず,トランスグルタミナーゼ1遺伝子の発現の時間経過をケラチンK6のそれと比較検討した.その結果,トランスグルタミナーゼ1mRNAの発現はK6とともに誘導されるが,K6よりも早期に正常化することが明らかとなった.従って,創傷の初期では,K6とトランスグルタミナーゼ1遺伝子は共通の転写シグナルにより発現調節を受ける可能性が示唆された.また,共焦点レーザーイメージングにより,発現したトランスグルタミナーゼ1は基質であるインボルクリンとほぼ同様に有棘層の細胞膜に局在するが,最も主要な基質であるロリクリンはむしろ発現抑制されること明確となり,創傷治癒においては通常の角化とは異なる転写制御システムが働くことが示唆された.さらに,トランスグルタミナーゼ1欠損皮膚をヌードマウスに移植し創傷治癒を観察した場合,正常移植皮膚よりも明らかに治癒が遷延するが,K6mRNAの発現は移植トランスグルタミナーゼ1欠損表皮でも構成的であり,創傷作製後,再生表皮に強く誘導され,創傷の閉鎖後も発現が残存することから,トランスグルタミナーゼ1欠損皮膚ではK6遺伝子の高発現をともなう遺伝子転写機構の脱制御が生じていると考えられる.恐らくは,トランスグルタミナーゼ1欠損による二次的な炎症細胞浸潤とそれらが産生するサイトカインの影響や,トランスグルタミナーゼ1欠損による未熟な周辺帯形成不全を伴う再生表皮細胞の脆弱性などが関与すると思われるが,詳細については今後の課題である.
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