増殖因子受容体とそのシグナル伝達経路の活性化が放射線感受性決定またその増感にどのように関与しているかを明らかにすることを目的に検討した。これまでに、上皮増殖因子受容体(EGFR)の発現と放射線感受性が逆相関しており(受容体の発現が強い腫瘍ほど放射線感受性が低い)、その機序として受容体とその下流のシグナル伝達経路が放射線により活性化されることが関与していることを報告した。さらに、細胞増殖因子受容体とそのシグナル伝達のなかで最近"生存シグナル伝達経路"としてその活性化が細胞の増殖やアポトーシスの抑制に関与するとして注目されているRas-Raf-MAPK(Mitogen-activated Protein Kinase)およびPI3K(phosphatidyl inositol 3-kinase)-AKT/PKBの経路が放射線感受性決定にどのように関与しているかについて研究を継続し、下記のごとく興味深い知見を得ており、その成果の一部を報告した。それは、1)放射線により両シグナル伝達経路が放射線抵抗性腫瘍で活性化される、2)チロシンキナーゼ阻害剤であるgenisteinの併用で、これらのシグナル伝達経路の活性化を阻害することにより放射線増感作用がある、3)シグナル伝達経路の中心分子であるp42/p44 ERK(extracellular signal-regulated kinase)およびPI3Kの選択的阻害剤で活性を阻害することにより放射線感受性が増感される、4)野生型p53を有する細胞では増感の機序にアポトーシスの誘導が関与している、などである。これらの結果は生存シグナル伝達経路が放射線感受性決定の機序、特に抵抗性の機序に関与していることを示すものであり、生存シグナル伝達経路の構成分子を標的とした治療が、放射線抵抗性克服に有用である可能性を示唆するもである。現在も、臨床応用可能な標的について研究を継続している。
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