【目的】近年、大動脈瘤の低侵襲的治療として、自己拡張型人工血管(ステントグラフト)を動脈瘤内に留置する方法が試みられている。本研究は、3次元画像をもとに、正確な大動脈瘤モデルを作成し、治療のシミュレーションを行うことによって、最適な治療法と治療器具の開発をめざすものである。 【方法】1)胸部および腹部大動脈瘤のヘリカルCTデータをもとに、コンピュータ画像処理とレーザー造型術を用いて実物大の大動脈モデルを作成し、その精度を評価した。2)シリコン、ラテックスなどを材料としてコンプライアンスの異なった大動脈瘤モデルを作成し、脈圧回路に接続、モデルの形状と内圧の変化を連続的に測定した。3)Porosityと厚さの異なるポリエステルおよびPTFEで作成した4種類のステントグラフトを大動脈瘤モデルに留置し、ステントグラフトによる動脈瘤壁への圧緩衝効果を検討した。4)これらのステントグラフトに静水圧および脈圧を負荷し、ステントグラフトの拡張および変形の程度を計測した。 【結果】レーザー造型術により作成した大動脈モデルの誤差は0.7mm未満であった。形状によって、弾力性のある材料を用いたモデルの作成も可能であった。ステントグラフトの留置によって動脈瘤壁への圧負荷の減少が得られ、この圧緩衝効果は、動脈瘤のコンプライアンスが高く、ステントグラフトのporosityが小さい場合に効果が大きかった。厚さ0.1mmのPTFEで作成したステントグラフトは、200-300mmHg以上の圧負荷を長時間加えると拡張、変形を生じた。 【結論】CTデータを用いた実物大の大動脈瘤モデルの精度は高く、ステントグラフト治療のシミュレーションに有用であった。ステントグラフトの圧緩衝効果には、材質と組織特性が関係することが確認された。薄いPTFEを用いたステントグラフトを用いた場合、適切な血圧の管理が必要と考えられた。
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