まず、既存の核医学診断薬剤を用いたミトコンドリア機能評価の可能性を明らかにするため、ラットおよびマウス脳新鮮組織切片を用いた動的トレーサ解析実験系を確立させた。それを用いて、ミトコンドリアが大きく関与することが知られる低酸素あるいは虚血障害時におけるトレーサ挙動から、ミトコンドリア障害の程度を評価できるかどうかを検討した。トレーサには脳エネルギー代謝をもっとも良好に反映する糖代謝診断薬剤であるF-18-2-fluoro-2-deoxy-D-glucose(FDG)を用いた。その結果、低酸素によりミトコンドリア抑制に伴う糖代謝亢進とすみやかな非可逆的障害の発生をみた。障害はグルタミン酸放出とラジカル産生の両面から生じていたが、特にラジカル産生においてミトコンドリア障害の発生が示唆された。また、生後早期に記憶障害を呈する老化促進モデルマウス脳では、生後早期における糖代謝が亢進する現象とともに、老齢化にともないミトコンドリア機能の低下が観察され、エネルギー代謝系異常とそれによって引き起こされるミトコンドリア障害、さらにラジカル産生という障害発生経路の存在が示唆された。これらの検討は特殊な試薬ではなく臨床利用可能な薬剤によって行われたものであり、今後、その臨床への展開を図るとともに、この研究で開発された新手法を新たな薬剤開発へ応用していく予定である。
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