低酸素細胞毒素の生体還元物質Tirapazamine(TPZ)投与は、低温度温熱処置と併用することによって、腫瘍内休止期(Q)細胞及び腫瘍内全腫瘍細胞(P+Q細胞)の感受性を高めることを明らかにした。また化学放射線療法または低温度温熱処置併用化学放射線療法において、殺細胞効果を増強する併用薬剤としても非常に有用であることが示された。更に、血管新生阻害剤のTNP-470処置後の腫瘍に対してもTPZを併用した放射線照射や抗癌剤投与が有効である事が明らかになっており、X線照射がQ腫瘍細胞からP腫瘍細胞への再分布現象を誘導するのとは対照的に、TPZ投与は、逆に、P腫瘍細胞からQ腫瘍細胞への再分布現象を誘導する事も今回の研究で明らかになった。 中性子捕捉療法に関する研究では、中性子捕捉化合物の投与によってQ細胞とP+Q細胞との間の再酸素化速度の相違がより顕著になり、中性子捕捉化合物非投与下にくらべ共に再酸素化速度は遅延し、特にBPA(p-Boronophenylalanine-^<10>B)使用時にはγ線照射後と同程度に遅延した。中性子捕捉化合物非投与後の中性子線照射では、両細胞分画の潜在的致死的障害からの修復(PLDR)は非常に小さいが、化合物投与、特にBPA投与によって、両細胞分画のPLDRは顕著になり、γ線照射後のPLDRに近似した。熱中性子線照射後の再分布は、中性子捕捉化合物非投与下ではほとんど認められず、中性子捕捉化合物、特にBPAの投与によって顕著になりγ線照射後に近似した。よって、中性子捕捉化合物、特にBPAのQ細胞への分布はP+Q細胞よりも低く、その結果γ線照射後の両細胞分画の挙動に近似したと思われた。 他方、SCCVII腫瘍においては、TPZやシスプラチン処置後には腫瘍内の低酸素細胞分画が低下し、ブレオマイシン処置後では放射線照射後と同様に腫瘍内の低酸素細胞分画が上昇する事が明らかになり、分割治療時における腫瘍内の酸素化状態の変化に応じた適切な処置の選択も多少なりとも可能になった。
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