我々は以前にヒト骨肉腫由来のMG-63細胞において、Phosphatidylinosito13-kinase(P13K)の阻害剤であるwortmanninの放射線増感効果が増殖期細胞では観察されず、プラトー期細胞では非常に大きな増感効果が観察されることを見い出した。そしてその理由としてプラトー期細胞ではwortmannin処理によりDNA-PK活性が低下し、DNAの二重鎖切断の修復が抑制されることによっていることを明らかにした。この結果を基に平成11年度は腫瘍内微小環境因子の一つである低pHに着目し、wortmanninによる腫瘍細胞の放射線増感効果を低pH環境下と正常pH環境下で比較検討した。使用した細胞は悪性黒色腫HMV-1、神経膠芽腫A-172、肺腺癌A549である。wortmanninは正常pH環境下で3種類の細胞すべての放射線感受性を増強した。さらに低pH環境下で24時間培養後wortmannin処理と放射線照射を行った場合は、3種類の細胞いずれにおいても、正常pH環境下でのそれに比べさらに大きな放射線増感効果がえられた。放射線照射によって引き起こされるDNAの二重鎖切断の修復をパルスフィールド電気泳動で測定すると、正常pH環境下でのwortmanninによる修復阻害に比べ、低pH環境下でのそれは顕著であり、このことが低pH環境下でのwortmanninの大きな放射線増感効果に大きく寄与していると考えられた。今回、我々が得た結果は、Pl3Kの阻害剤が、腫瘍内の低pH環境にある細胞に対して大きな放射線増感効果を引き起こすことを示した。今後、臨床的に使用可能なP13K阻害剤の開発が、新しい放射線抵抗性癌の放射線増感剤として期待されるものと考えられる。
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