マウスSCID細胞の放射線高感受性は、DNA-protein kinase(DNA-PK)の触媒サブユニットであるDNA-PKcsの変異に起因している。DNA-PKcsはPI3-kinaseと相同性を有することから、PI3-kinaseの阻害剤はDNA-PKcsも阻害し、その結果SCID細胞と同様に放射線感受性を高めると考えた。PI3-kinaseの阻害剤であるwortmanninは多くのヒト腫瘍細胞で放射線増感効果を発揮し、その作用機構はDNA-PK活性の低下によるDNA二重鎖切断の修復の阻害出あることを示した。DNA二重鎖切断はパルスフィールドゲル電気泳動により測定した。DNA-PK活性はDNA-PKの基質ペプチドのリン酸化を試験管で測定した。このようなwortmanninの放射線増感効果の程度は細胞により差異があること、そして腫瘍細胞の増殖動体によっても大きな違いがあり、ヒトの骨肉腫由来のMG-63細胞では対数増殖期にある細胞ではほとんど放射線増感は見られないが、プラトー期にある細胞では大きく増感された。さらに腫瘍内微小環境因子のひとつである低pH環境にある細胞では、wortmanninによる放射線増感が大きく観察された。またwortmanninによる放射線増感は腫瘍細胞の癌抑制遺伝子p53のstatusによらず引き起こされることを見いだした。 以上の結果はDNA-PKの阻害剤の開発が、臨床的に放射線抵抗性を示す腫瘍細胞の放射線増感剤の新たな道を開くことが期待される。
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