本研究は分子生物学的観点から癌の治療方法を選択し、更に、癌の治療効果を予測するに際し、核医学的手法を有効に活用することを目的としている。 研究はヒト類上皮癌細胞KB-31とKB-G2(KB-31にmdrを導入した細胞)細胞を用いた。 核医学手段として、多剤耐性の機能のみを提示するTc-99m-MIBIとmdrの発現物質P-糖たんぱく質の抗体をI-125で標識したものを用いた。 まず、細胞を用いたin vitroの実験を行い、以下の結果を得た; 1.遺伝子発現、すなわちP-糖たんぱく質の程度はTc-99m-MIBIの取り込みとの間に負の相関が、I-125標識抗体の取り込みとの間に正の相関が認められた。 2.各種の抗癌剤、多剤耐性克服剤、P-糖たんぱく質ブロック抗体、mdrに対するアンチセンスの影響をTc-99m-MIBIとI-125標識抗体の取り込みを用いて検討し、Tc-99m-MIBIは多剤耐性の機能をI-125標識抗体はP-糖たんぱく質の存在を反映していることを確認した。 次にそれぞれの細胞を片方の大腿部に植え付けたヌードマウスを用いたin vivo実験を行った。 1.マウスにTc-99m-MIBIを投与した結果、Tc-99mはKB-31に集積して、KB-G2には集積しなかった事から、mdrの発現、即ち、P-糖たんぱく質の存在と機能とをin vivoで検討できる事を確認した。 2.マウスに多剤耐性克服剤を投与した後、Tc-99m-MIBIを投与して、その体内動態を追跡して、各種克服剤の至適濃度と至適時間を明らかにした。 同時に、克服剤の投与に伴う他の正常臓器(特に腎臓機能)への副作用をその臨床症状が表れる前に明らかにする事ができた。 以上、遺伝子的に多剤耐性を獲得した癌を検出し、それに対する克服剤とその投与条件を選択し、さらに、その克服剤の投与後の効果を予測できるTc-99m-MIBIシンチグラフィ(核医学的手法)を開発した。
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