研究概要 |
癌治療において最も困難な問題が転移である。放射線療法、温熱療法は癌の局所療法として重要な地位を占めており、両療法による癌転移への影響は興味ある課題であると共に臨床的にも明らかにしなければならい問題である。そこで、ヒトの高転移性癌細胞を使用して、放射線、温熱療法の癌転移に及ぼす影響を細胞線溶の立場から検討した。 また、放射線療法、温熱療法において、周辺正常組織への照射、加温は免れえない。そこで、正常細胞(ヒト繊維芽細胞:NF)及び癌細胞(ヒト繊維肉腫HT-1080腫瘍細胞:HT-1080)を照射、加温し癌の転移・再発に関与する細胞線溶因子を検討した。 1)高転移性ヒト由来癌細胞でのin vitro実験およびヌードマウスへの移植によるin vivo実験ヒト肺癌由来AOI腫瘍細胞、ヒト神経膠芽腫由来U87MG腫瘍細胞、ヒト骨肉腫由来OST腫瘍細胞を培養しin vitroにおける放射線照射および温熱による細胞線溶因子の変化を測定した。また、これらをヌードマウス下肢に移植し、放射線照射および温熱治療後の転位を計測した。 その結果、AOI,OST細胞は照射で細胞線溶が増加し、温熱では低下又は同じであった。ヌードマウス移植実験でも照射後転移が促進された。U87MG細胞は照射で細胞線溶は低下し、温熱で増加し、ヌードマウス実験でも温熱後転移が促進された。2)ヒト繊維芽細胞(NF)及その癌細胞(HT-1080)の放射線および温熱の転位・再増殖に及ぼす影響NF,HT-1080細胞を放射線照射および加温し、その培養液の細胞線溶因子を測定して再増殖能および細胞形態を観察した。 その結果、細胞線溶は(特にuPA)正常細胞(NF)に比べ癌細胞(HT-1080)の方が10〜50倍高く、特に放射線照射後および再増殖時に増加した。また、照射・再増殖で癌細胞形態が変化した。 以上の結果より、腫瘍細胞により、放射線照射または温熱療法により転移・再発が促進される可能性が明らかとなった。とくに、ヌードマウスでのin vivoの結果はin vitroの細胞線溶の結果を反映することより、放射線照射および温熱療法後の腫瘍の細胞線溶(徳にuPA)は転移の有効な指標になると思われた。
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