PTEV遺伝子は染色体10番染色体長腕(10q23.3)に局在し、phosphotase domainとTensinとのhomologyを有する領域をもち、phosphotaseの作用により、リン酸化チロシンの脱リン酸化に関与する可能性があり、この点で細胞制御に関与していると考えられている。また、アクチンフィラメントに結合するとされているTensinとhomologyがあり、細胞接着に関連した機能をもつ可能性が示唆されている。PTEN遺伝子は癌抑制遺伝子として1997年に単離されて以来、1998年に子宮内膜癌、脳腫瘍、乳癌、前立腺癌など、多くのヒトの癌でPTEN遺伝子変異が報告されているが、子宮頸癌では発現率が0〜2%と低い。そこで今回、我々は進行期子宮頸癌にもPTEN遺伝子変異が関与するとの仮説をたて、その発現の有無を検討した。さらに、変異と放射線治療の感受性との関連を検討した。IIIB期、IVA期の子宮頸癌患者50例を対象とし、初診時に生検を行い、-80℃に速やかに保存した。生検癌組織からDNAを抽出し、PTEV遺伝子の塩基配列の異常をSSCP、ダイレクトシークエンス法によって検討した。その結果、PTEN遺伝子変異はExonl non-coding regionに4例、Intron7に3例、Exon5に1例の計8例(16%)に見られた。変異はIIIB期2例、IVA期6例に見られ、IVA期に有意に多く認めた(P=0.002)。変異(+)の症例の平均腫瘍径は8.5±2cmであったのに対して、変異(-)では6±2.1cmで、有意に変異(+)の症例の腫瘍径が大きかった(P=0.009)。変異(+)の症例の予後は変異(-)よりも不良であった(P=0.009)。したがって、PTEN遺伝子変異は腫瘍の進行と予後に関与し、進行期子宮頸癌の放射線治療による治癒率を向上させるための標的遺伝子の1つとなる可能性がある。
|