慢性覚醒剤中毒モデルラットの不安行動に関わる内因性グルタミン酸の作用脳部位を明らかにする目的で、覚醒剤を投与しないラットに対して、扁桃体、視床背内側核破壊の不安行動の発現に対する影響を検討した。両側扁桃体あるいは両側視床背内側核を高周波破壊し、フットショックによる恐怖条件付けを行い、24時間後に再びラットをショック箱に入れた際の不安行動(すくみ行動)を観察した。両側扁桃体破壊ラット及び両側視床背内側核破壊ラットでは、不安行動は有意に低く出現した。すなわち、両脳部位破壊は恐怖条件付けの獲得過程を抑制した。さらに、いったんフットショックによってショック箱に恐怖条件付けを行った後に、脳破壊を行い、10日間の回復期間の後にラットをショック箱に再曝露する実験を行ったところ、いったん獲得されたはずの条件恐怖は両側扁桃体破壊ラット及び両側視床背内側核破壊ラットで有意に低く出現した。したがって、両脳部位破壊は恐怖条件付けの発現過程を抑制した。以上の結果は、両側扁桃体破壊及び両側視床背内側核破壊が恐怖条件付けの獲得過程と発現過程の両過程を抑制することを示している。覚醒剤中毒モデルラットでは恐怖条件付けによる不安行動が増強するが、覚醒剤が不安増強を引き起こす脳部位としては、扁桃体と視床背内側部がその候補としてあげられる。今後、覚醒剤の作用脳部位を明らかにするために、扁桃体や視床背内側核に覚醒剤およびグルタミン酸拮抗薬を脳局所投与し、恐怖条件付けに対するを検討することにより、覚醒剤による不安増強に関わる神経回路を解明したい。
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