研究概要 |
1.薬物治療抵抗性または不耐性のためにECTの適応となった初老期・老年期うつ病連続症例(N=16,M/F=6/10.49〜74歳、平均63.2±7.1歳、DSM-IVの大うつ病エピソード)に対して、ECT前後の臨床症状をハミルトンうつ病評価尺度(HAM-D)でモニターし、ECTの反応率とECT後6ヶ月の再燃率を算出した。ECT前後のHAM-D平均改善率は75%、「HAM-D改善率50%以上かつ12点以下が少なくとも1週間持続」を基準とする反応率は81%、「反応例においてECT後の経過中にHAM-D17点以上が1週間以上持続」を基準とする再燃率は46%であった。薬物治療が困難な初老期・老年期うつ病において、ECTは反応率80%台の高い短期的治療効果を発揮するが、ECT後6ヶ月間の再燃率は約50%であり、ECTを用いた治療戦略の開発には、ECT後の易再燃性の病態解明と再燃予防のための継続/維持治療の開発が重要である. 2.Tc-HMPAO^<99m> SPECTを用いて,ECT反応群9例の局所脳血流動態の変化を縦断的に解析したところ,1)ECT前の患者群には,小脳に対する相対的な大脳平均血流量の低下とともに,全脳に対する両側吻側前部帯状回・梁下回・内側及び後部眼窩回,右島皮質・中前頭回後部に相対的局所脳血流量低下が認められたが,2)ECT後には,臨床症状の改善とともに小脳に対する大脳平均血流量が正常化し,この正常化がECT終了後3ヶ月(非再燃群では6ヶ月)間持続した.しかい,3)全脳に対する両側吻側前部帯状回・梁下回・内側及び後部眼窩回,右島皮質・中前頭回後部の局所脳血流量低下はECT終了後も持続的に認められた.難治性老年期うつ病患者に見られる大脳平均血流量の低下は状態依存性指標である可能性があるが,paralimbic領域の血流低下パターンは再燃脆弱性に関連する素因関連性指標である可能性が示唆された. 3.ECSがラット縫線核のセロトニン・トランスポーターmRNAの発現に及ぼす影響を解析した。単回ECSによってmRNAの発現が減少し、反復ECSによって持続的なmRNAの発現低下が認められた。難治性老年期うつ病におけるECT後の抗うつ薬反応性変化のメカニズムに関連する所見と推測された。
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