研究概要 |
穿通経路は、内嗅領皮質と海馬を結ぶ連絡経路であり、アルツハイマー病で最も早期に障害される。穿通経路を傷害すると、投射先である海馬にアセチルコリン線維の増生をはじめとする可塑性反応が出現するが、その機序は十分解明されていない。そこで穿通経路障害後、海馬内のどの領域で、どのような神経細胞が可塑性反応を示すかについて、免疫組織化学とウェスタンブロット(WB)を用いて検討した。 1)神経細胞内ユビキチンの検討。 穿通経路障害1日後海馬全域にわたり神経細胞内のユビキチンの発現が低下した。3日後介在細胞とC_<A3>領域の錐体細胞内のユビキチンの発現が回復し、7日後歯状回顆粒細胞とC_<A1>の錐体細胞のユビキチンが回復した。本研究で用いたユビキチン抗体は単体のユビキチンを認識し、ストレス下で重合したユビキチンは認識しない。神経細胞は穿通経路の障害というストレス源に対し、受けた衝撃の大きさに一致して、ユビキチン重合を起こした可能性が考えられた。 2)NMDA受容体各サブユニットの発現の変化 アセチルコリン線維はNMDA受容体の活性化を介して増生する機序が推察されている。本研究では、NMDA受容体NMDAR1,NMDAR2ABサブユニットの変化を検討した。NMDAR1の染色性は1日後、歯状回顆粒細胞体上からニューロピルへ移行した。3日後歯状回分子層外側部に染色性の増強がみられ、これらの変化は30日後まで認められた。一方、NMDAR2ABの増強は3日後分子層外側部に軽度みられたが、その他著変はなかった。穿通経路の障害で海馬に入るグルタミン酸は著減するが、NMDAR1の増加はそれに対する反応と考えられた。また、NMDAR1は穿通経路から海馬へのシグナル入力に際しより重要な働きを担っているものと考えられた。 以上より、穿通経路障害後の海馬における可塑性変化の機序について重要な知見が得られた。
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