精神分裂病の意味的情報処理の異常について調べるために、健常被験者や精神分裂病患者に文や単語リストを呈示し、脳磁図を記録した。刺激は品詞別条件(名詞や助詞など)、表記別条件(漢字、ひらがな、記号)、文末種類別条件(文脈から意味的に逸脱する単語、意味的に一致し期待度の高い単語、意味的に一致するが期待度の低い単語、数字)などに分類し平均加算し、得られた脳磁界反応を比較検討した。どの条件でも潜時100〜250msecおよび300〜500msecの2つの区間において脳磁界反応(それぞれM200、M400)が認められた。M200のroot mean square(以下RMSと略)は名詞>助詞、漢字>ひらがな>記号という有意差が認められたが、電流源推定による活動部位についてはいずれも紡錘状回付近に推定され、条件別の差は無かった。M200は単語の視覚的認知の過程を反映していると考えたが、記号条件で他の条件に比しRMSが際立って小さかった事より、少なくともM200の一部分は音韻過程に関与していることが示唆された。文脈から意味的に逸脱する単語や意味的に一致するが期待度の低い単語では意味的に一致し期待度の高い単語よりM200のRMSが大きかった。M400の電流源推定による活動部位についてはいずれも上側頭回〜角回付近に推定され、条件別の差は無かった。M400は単語を文脈に統合していく過程を反映していると考えた。条件間のM400のRMSの差は精神分裂病患者群で小さかった。精神分裂病患者では単語を処理する際に文脈をうまく利用していない、または単語を文脈に統合していく過程に障害があることを反映していると考察した。なお、M400の電流源推定は両群とも上側頭回〜角回付近に推定され、差が認められなかった。これは精神分裂病患者でも言語的ネットワーク構造は保たれているという従来の主張と一致した。
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