研究概要 |
ヒト過眠症の動物モデルであるイヌ・ナルコレプシーを用いた研究では脳内ドーパミン・システムが覚醒維持に重要であると報告されている.1999年にイヌ・ナルコレプシーにおいてオレキシン受容体2型の遺伝子欠損が報告され,続いてプレプロオレキシンノックアウトマウスがナルコレプシーと同様の症状を示すことが報告された.オレキシン含有ニューロンは視床下部外側部に集中し,ドーパミンの起始核である中脳被蓋野に強い投射があり,オレキシンの側脳室投与は行動の増加と中脳被蓋野細胞活動の上昇を起こすことから,オレキシン・システムのドーパミン調節系修飾作用が示唆され,過眠症における脳内覚醒維持機構にオレキシンの役割が重要となってきた.本研究ではオレキシンあるいはドーパミン受容体作動薬(Quinpirole,7-OH-DPAT)の覚醒あるいは睡眠促進作用を検証するために,第三脳室内連続注入法を用い覚醒,ノンレム睡眠,レム睡眠の各睡眠パラメータに及ぼす効果について解析した.オレキシンA(0.1,1,5,10nmol),B(1,5,10,40nmol)を50μlの生理食塩液に溶かし,明期(08.00-20.00)の11.00-16.00に5時間持続して被験動物に投与した.オレキシンA,Bともにノンレム睡眠およびレム睡眠抑制効果を示し,同一の用量で比較するとオレキシンAの方がBより強い覚醒効果を有することが判明した.Quinpiroleおよび7-OH-DPATは今回使用した用量(100nmol)ではほとんど睡眠に影響がなかった.オレキシン含有ニューロンは脳内に広く分布し,ドーパミン調節系以外に睡眠-覚醒調節に重要とされる青班核,背側縫線核および結節乳頭核にも強い神経投射があることから,脳内覚醒維持機構におけるこれらの部位との関連について今後さらに詳細な研究が必要である.
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